国立がん研究センター社会と健康研究 センター・センター長 津金昌一郎さん(62)/1955年生まれ。医学博士。「日本人のためのがん予防法」を提言するための研究に取り組み、2014年度高松宮妃癌研究基金学術賞を受賞。著書に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』(祥伝社新書)(撮影/大野洋介)
国立がん研究センター社会と健康研究 センター・センター長 津金昌一郎さん(62)/1955年生まれ。医学博士。「日本人のためのがん予防法」を提言するための研究に取り組み、2014年度高松宮妃癌研究基金学術賞を受賞。著書に『科学的根拠にもとづく最新がん予防法』(祥伝社新書)(撮影/大野洋介)
五つの生活習慣に起因するがん死亡者数(AERA 2018年2月12日号より)
五つの生活習慣に起因するがん死亡者数(AERA 2018年2月12日号より)
五つの健康習慣を実践するとリスクはこう低下する(AERA 2018年2月12日号より)
五つの健康習慣を実践するとリスクはこう低下する(AERA 2018年2月12日号より)

 がんになってもいたずらに恐れる必要はない時代が来ているのはわかった。それでも罹患しないに越したことはない。予防医学の最前線はどうなっているのだろう。

【図表で見る】五つの生活習慣に起因するがん死亡者数

「○○が、がん予防にいい」と聞けば、飛びつきたくなる気持ちもわかる。だが、そこには誤解も多い。正しい知識こそががんを防ぐというのは、国立がん研究センター社会と健康研究センター・センター長の津金昌一郎氏。

「がんは老化現象のひとつであり、長生きすればするほど発生しやすくなる、高齢者にとってはありふれた病気ともいえるのです。それでも、がんになる人とならない人がいるのは遺伝的要因より環境的な要因、つまり生活習慣の違いが大きい」

 1990年から現在まで、国立がん研究センターが中心となって、食生活や生活習慣、健康状態との関連を追跡調査した「多目的コホート研究」が行われてきた。さらにその他のデータも組み合わせて導き出されたのが、日本人ならではのがん予防法だ。

「がん予防として科学的根拠(エビデンス)をもって認められているのは、『非喫煙、節酒、塩蔵品を控えるなど食生活の見直し、活発な身体活動、適正なBMI』という五つの生活習慣です。仮に五つすべてを実践できなくても、一つ実践するごとに、男性では14%、女性では9%ずつ、がんの発生リスクが低下することがわかっています」(津金氏)

 生活習慣の中でもっとも注意すべきなのはたばこ。40~69歳の男女9万人を対象に8年間追跡したコホート調査では、喫煙者は非喫煙者よりも肺がんリスクが4~5倍、何らかのがんにかかるリスクは1.5~1.6倍高いという結果が出た。一方で、禁煙した人を対象に、たばこをやめてからの年数で肺がんの発生率を調べてみたところ、やめてから時間が経つほどリスクは低くなり、20年以上になると、非喫煙者とほぼ同等になることがわかった。

「長年吸っているからいまさらやめてもムダ、ということはありません。一般的に、喫煙者は非喫煙者より寿命が約10年短いといわれていますが、禁煙すれば、寿命も延び、発がんリスクも下がる。喫煙者はなるべく早く禁煙に取り組むことです」(同)

 また、周囲の人々の発がんリスクも確実に高めてしまう「受動喫煙」も問題だ。日本では、受動喫煙と関連する病気の死亡者数が年約1万5千人。だが、屋内禁煙の法制化も含め、先進国の中で対策がかなり遅れていることを津金氏は懸念する。

「喫煙していない女性約3万人を13年間追跡したわれわれのコホート調査では、非喫煙者に多い肺腺がんを始め、すべてのタイプの肺がんのリスクは、夫が非喫煙者の場合と比較すると、夫が喫煙者の妻の発がんリスクは約1.3倍でした。喫煙者が多く集まる居酒屋や喫茶店などにいる人々、そこで働く人々も、リスクは高くなります」

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