ダビンチは国内では約250台導入されている。ダビンチによる胃切除術は一部の医療機関で保険診療と併用できる先進医療として、それ以外は一例あたり200万~300万円の自費診療で実施されてきた。

 もっとも、傷さえ小さければ“患者に優しい”わけではない。重要なのはその“中身”だ。できるだけがんの周囲だけを小さく切り取り、機能を残すようにする「縮小手術」も広がっている。例えば、肺がんであれば、より早期で見つかるものが増えたが、できるだけ小さく切り取ればそれだけ肺活量も残され、その後の人生の生活の質が維持される。肺の小さな腫瘍(しゅよう)に対して、肺の区域ごとに切除する「区域切除」に取り組む医療機関が増えている。また、早期胃がんに対しても、“見張り番”となるセンチネルリンパ節を生検で見つけ出し、がんが到達したリンパ節だけを切除する縮小手術が、先進医療で行われている。

 もう一つ、4月から新たに保険適用されるのは、放射線治療のうち、重粒子線と陽子線を使った治療だ。線量をがん細胞に集中させ、正常な組織へのダメージが小さくて済むのが大きな特徴だ。がん細胞の殺傷能力も、X線を1として、陽子線は約1.1倍、重粒子線は2~3倍高いとされる。

 特に小児のがんは、低線量の被曝(ひばく)でも発育障害や2次がん誘発への影響が大きいため、16年に陽子線治療が保険適用になった。手術で切除できない骨軟部腫瘍への重粒子線治療も保険適用とされた。4月から、転移がない前立腺がんと、頭頸部(けいぶ)がん(口腔(こうくう)・咽喉(いんこう)頭の扁平(へんぺい)上皮がんを除く)に対する陽子線と重粒子線の治療、手術で切除できない骨や筋肉などにできる骨軟部腫瘍への陽子線治療が新たに保険適用になる。

 ただ、粒子線治療装置は大型で、高価なことが普及の課題だった。国内の治療施設数は、重粒子線5、陽子線12の合計16カ所あり、国別の施設数では世界一多い。

 X線やγ線など従来の放射線治療を、より高精度にする技術開発も進んでいる。背景には、近年のコンピューター技術の進歩がある。1点に放射線を集中するピンポイント照射「体幹部定位放射線治療(SBRT)」や、がんや臓器に合わせて線量に強弱をつけて照射する「強度変調放射線治療(IMRT)」といった精度の高い照射法が用いられるようになっている。

 こうした高精度放射線治療に組み合わせ、位置決めをより正確にする技術として「画像誘導放射線治療(IGRT)」も進化している。さらに、治療前に、放射線診断技術やそれに基づく治療計画へのAIの応用による進歩が期待されている。

 多くのがんは局所にとどまらず、周囲の組織に広がり全身に転移する傾向がある。こうしたがんを中心に、抗がん剤と放射線治療を同時に併用する化学放射線療法も行われ、一部のがんでは、手術に劣らない成績を収めているがん治療もある。(ジャーナリスト・塚崎朝子)

AERA 2018年2月12日号より抜粋