遺伝子に働きかけて、がんを治す。そんな未来へ向けた研究が進んでいる。治療法の選択肢が広がることになれば、患者の希望になる(DNAはイメージ)[撮影/写真部・東川哲也]
遺伝子に働きかけて、がんを治す。そんな未来へ向けた研究が進んでいる。治療法の選択肢が広がることになれば、患者の希望になる(DNAはイメージ)[撮影/写真部・東川哲也]
がんの部位別死亡者数(2016年)[AERA 2018年2月12日号より]
がんの部位別死亡者数(2016年)[AERA 2018年2月12日号より]
ゲノム編集のイメージ(AERA 2018年2月12日号より)
ゲノム編集のイメージ(AERA 2018年2月12日号より)

 がん治療をめぐって医療技術の進展がめざましい。遺伝性疾患で研究が進み、将来はがん治療にも応用できるとの期待がある。その最前線に迫った。

【図】がんの部位別死亡者数はこちら

 安らかな表情とは、とても言えなかった。高校生の子ども2人と妻を残し、この世を去らなければいけない無念と、闘病生活の末の苦しみが深く刻み込まれていた。

 昨年10月末、1歳年下の弟が旅立った。最後の眠りについた際の表情が、今も脳裏から離れない。享年44。胃がんの発見から2年、壮絶な闘病生活を送る間、弟は常に「自分は死なない。絶対にがんに勝つ」と言い続けた。繰り返し宣告された余命は次第に短くなり、昨夏は越せないとの見方だったが、精神力で死ぬことに必死に抵抗しているように見えた。それでも延びた寿命は数カ月だった。

 自分自身で「生き続ける方法」を調べ、胃がん治療の研究で最先端と言われる病院へ転院したり、新しい抗がん剤を積極的に試したりした。肝臓が弱り、最後は腎臓が不全となった。これが直接の死因だった。手術、抗がん剤、放射線が3大治療となっている現在のがん医療の限界を痛感した。

 日本人の2人に1人がかかり、3人に1人が死亡するとも言われるがん。だが、医学の進歩によって、早期発見、早期治療をすれば完治する可能性が高まったのは確かだ。実際に筆者も10年前に腎臓がんが見つかったが、摘出手術を受けた後、再発はない。

 国立がん研究センターの統計によると、2006年から08年の間にがんと診断された人の5年生存率は62.1%で、前回調査(03~05年)の58.6%よりも改善されている。

 厚生労働省の統計によると、それでも1981年以降、日本人の死因1位は常にがんが占めている。がんによる死亡者数も毎年増加しており、16年には37万2986人が命を奪われた。早期発見であれば治る可能性はあるが、問題は、あちこちに転移した後の治療が難しいことだ。

 しぶとく、油断のならないがん。はがゆさから色々と調べたら、まだ研究段階にあるものの、技術の急速な進歩によって、大きな期待が寄せられている次世代治療技術があることを知った。

 遺伝子治療、そしてゲノム(全遺伝情報)編集だ。

 遺伝性疾患なら、病気の原因となっている遺伝子の異常を根本から治療してしまおうという治療法だ。血液の病気である血友病などで研究が進んでおり、がんの治療にも期待がもたれている。まさに神の領域とも言える治療技術が昨今、大きな関心を集めているのだ。

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