タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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1月17日にイギリスで「孤独担当大臣」というポストが新設され、話題となっています。孤独に苦しむ人を減らす取り組みを国ぐるみで行う必要があるのは、日本も同じかもしれません。
それを待つまでもなく、すぐにできることがあります。知らない人と雑談することです。ほとんどの場合はその場限りだけど、誰かにとっては、あなたとの会話が忘れられない言葉になるかもしれません。本当に。
私がそれまでとは全く違う種類の孤独を感じたのは、初めての産休の時でした。出産直後から気分が落ち込み、不安で泣いてばかり。産後の1カ月間は家で子どもにかかりきりの日々でした。
夜中に何度もオムツを替えながら、これがずっと続くのだ、私の人生はもうおしまい、と絶望的な気持ちになりました。夫が仕事に出かけたあと赤ちゃんと二人きりでいると、世界中から切り離されたような心細さを感じました。
そしてついにやってきた満1カ月。初めてのお散歩です。自宅マンションを一歩出たところで、この広い世界でどうやってこの子を育てていけば、と立ちすくんで半泣きになってしまいました。そこへ、通りすがりの熟年女性が声をかけてくれたのです。
「あら赤ちゃん、可愛いわねえ。今大変でしょ。でも大丈夫よ、だんだん楽になるから」
そして、行ってしまいました。たったそれだけ。
私にとって、彼女は今でも恩人です。あの時、何よりも聞きたかった言葉を言ってくれたのですから。背中にそっと手を添えてもらったような温もりを感じました。私たちはそんな何げない言葉で、互いをこの世につなぎ留めているのかもしれません。
あれから15年経って、私は知らない人によく話しかけるおばさんになりました。赤ちゃんは確かに、あっという間に私よりも背が高くなってしまいましたと、彼女に報告したいです。
※AERA 2018年2月5日号