さて、冒頭に紹介した大村のグループ。50新種超の微生物を見つけ、それらを含む微生物が創り出す470種を超える化合物を発見している。このうち26の化合物が医薬品や農薬、研究用の試薬となって世に出ているという。

 中でも、スタウロスポリンは、岩手県水沢市(現・奥州市)で採取された放線菌が作り出した物質で、生化学研究の重要な試薬となった。のみならず、その構造を模して合成された化合物の中から、白血病治療薬のグリベックや、肺がん治療薬のイレッサなど、画期的な分子標的薬が生まれた。

 実は大村は、今でも袋を持って外を出歩く。チームも作って皆で土を採取し、わずか1グラムの土から何千という菌を分離して、今もその機能を探っている。いずれ、がんや結核、エイズなど、まだ人間が克服できぬ病を土の中の微生物たちが救う日が、また来るかもしれない。(文中敬称略)
(ジャーナリスト・塚崎朝子)

AERA 2018年1月29日号より抜粋