ネコの首の付け根に鍼を1本刺した。鍼はヒト用だ。ネコは痛がる様子を全く見せない。
「鍼の痛みはほとんど感じていないと思います」。山内さんは一気呵成に、目の上や肩などに計6本の鍼を刺していった。
「鍼を刺したのは熱のたまりやすいツボです。そこから刺激を抜いてあげるんです」
10分ほどで鍼を抜く。改めてネコの耳たぶに触れた飼い主から歓声が上がった。
「熱、下がった!」
同病院の「鍼・漢方」専門の診察室で受診するイヌやネコは1日8匹ほど。山内さんは言う。
「医療技術が進むほど検査も複雑化し、受診すること自体が負担になりがちです。漢方の人気は、ペットにストレスや負担の少ない治療をしてあげたいというニーズが背景にあるのでは」
ネコの場合、通院のストレスは大きな負担だ。このため、山内さんは体調や症状に応じ、自宅で飼い主ができるツボの刺激やマッサージも伝授している。
「ネコにとって一番大事なのはノンストレス。自宅でできるケアがネコにとっては一番だと思います」(山内さん)
イヌやネコにお灸を据えてくれる病院もある。
昨年5月に開院した沢村獣医科病院統合医療センター(千葉市)。澤村めぐみ院長は鍼灸師の資格ももつ。ここには強力な換気扇を設置した、お灸の専用診察室がある。
「体を温める力の弱い子にはお灸がいいんです。ネコは冷え性の子が多いので、お灸をしてあげると気持ちよさそうにしています」
澤村さんはネコの背中、脚、肩などに次々と5個のお灸を据えた。ネコの表情から内面の変化は測れないが、じっとして、少なくとも嫌がる様子は見せない。
鍼灸治療や漢方治療の効能が口コミで広がり、北海道や関西から電話で相談を受けることもあるという。終末期医療として検討したり、自然成分由来の漢方薬で根本治癒を求めたり、要望はさまざまだ。
澤村さんは「比較統合医療学会」(東京都千代田区)の業務執行理事を務める。同学会は、西洋医学や東洋医学といった医療分野を統合して扱い、比較検討することによって新しい診断治療法の確立を目指している。澤村さんは、同学会主催の獣医師対象の「鍼灸コース」講師を担当。毎年さまざまな企画で開催しているが、ここ数年は毎回、キャンセル待ちが出るほどの人気という。