小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
子離れの準備を始めた夏(※写真はイメージ)
子離れの準備を始めた夏(※写真はイメージ)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 1月に、自宅のあるパースから車で3時間ほどのマーガレットリバーというリゾート地に一家で小旅行に出かけました。サーフィン好きな人にはよく知られた街、マーガレットリバー。ちょっと大げさにいうと、軽井沢にハワイがくっついたような場所です。涼しい風が吹くユーカリの原生林から車で少し行くと、大きな波が次々と打ち寄せるビーチが広がっています。

 今回は、友人夫妻と一緒に川でスタンドアップパドルに挑戦しました。あの、サーフボードに立って櫂で漕ぐやつです。インストラクターは陽気な若い男性で、参加者は私たち一行と、メルボルンから来たカップル。ブラックウッドリバーという湖のように穏やかな川にボードを浮かべ、パドルを握ってそろりそろりと漕ぎ出します。

 ボードは案外幅が広くて、大人が正座しても左右に余裕があります。最初は座って漕ぎ、慣れてきたらひざ立ちになり、いよいよ立つ時にはコアマッスルを使ってバランスを取らねばなりません。

 流れはほとんどなく、あちこちから流木が顔を出しています。澄んだ水は少し深くなると琥珀色になり、底は見えません。落ちたらワニに食われるのではないかと心配しましたが、いるのは大きなザリガニくらいとのことでした。

 両岸の森からはワライカワセミやインコの声、あとは風の音がするばかり。パドルに伝わる水の抵抗に意識を集中していると、頭の中がすっきりと澄み渡っていきます。岸に戻る途中でさっと通り雨が降った時は、最高にワイルドな気分でした。息子たちもスイスイ漕いで、大喜びです。

 次男が12歳になり、これまでできなかった冒険に挑戦できるようになりました。だけどそれもあと数年。長男は2月から高1になります。この前まであんなに小さかったのに! 美しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうものなのだな、なんて早くも子離れの準備を始めた夏でした。

AERA 2018年1月29日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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