地道な調査は今も。写真は山梨大学の山村英樹准教授らのグループが製品評価技術基盤機構と実施したミャンマーでの探索(写真:山梨大学生命環境学部・山村英樹准教授提供)
地道な調査は今も。写真は山梨大学の山村英樹准教授らのグループが製品評価技術基盤機構と実施したミャンマーでの探索(写真:山梨大学生命環境学部・山村英樹准教授提供)

 ここ掘れワンワンでお宝発見は「花咲爺さん」だけの話じゃないようだ。土壌に棲む菌たちが、なんと人類を救う薬も生み出しているという。

 人類は、天然痘、ペスト、チフス、コレラ、破傷風、結核……など、死病と恐れられていた感染症(伝染病)と闘いながら、生き永らえてきた。一国あるいは一地域に暮らす大多数の人が死亡するなど、時として、細菌は歴史を左右するほどの脅威となった。だが人類を救うのも、また細菌かもしれない。

 2015年のノーベル医学生理学賞が、北里大学特別栄誉教授の大村智に贈られたことは記憶に新しい。熱帯の風土病、河川盲目症(オンコセルカ症)により3億人以上が失明の危機に瀕していたのを救ったのは、“菌が創り出した薬”イベルメクチンだ。大村は静岡県川奈のゴルフ場近くの土壌で見つけた、糸状に生育する「放線菌」の代謝物に寄生虫の活動を抑制する抗寄生虫活性を発見し、これを米国メルク社が製剤にして無償供与。失明の脅威が過去のものとなりつつある。

 このイベルメクチンは、当初は動物薬として開発。家畜の寄生虫を殺し、食料や皮革の増産などを可能にして人類に貢献した。さらにヒトの薬としても有効だった。日本でもストロメクトールとして発売され、腸管糞線虫症や疥癬という皮膚病の薬になっている。いまや家族同然の犬をフィラリアから守っているのも、この薬だ。

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