なんと腸内細菌は大腸やその周辺の病気に関わるだけでなく、脳や身体全体にも大きく影響するというのだ。実はヒトは胎児になる過程で腸は脳より先に生まれる器官で、脳に先駆けて人体をつかさどっている。落ち着きや睡眠に関係するセロトニンは腸内細菌で合成されると90%が腸内に貯蔵され、血液で運ばれて脳にあるのは2%程度。枯渇するとパーキンソン病の原因になるドーパミンや、減少すると認知機能に影響が出るアセチルコリンも、同様に腸内で合成される神経伝達物質だ。生成や供給に腸内細菌が影響しているのは言うまでもない。

 しかし、悲観することはない。腸内細菌のバランスを決めるのはどんな食べカスを大腸に送り込むかにかかっている。自分で一番コントロールできる臓器もまた、大腸なのである。そしてそれは毎朝、ウンチを観察することで確認できる。

 例えばこんな感じだ。バナナ2~3本分の黄褐色でにおいがキツくなく、スルリと気持ちよく出て水に浮く水分約8割のウンチ。これが出ること即ち、善玉菌が優位な腸内環境を意味する。この「ウンチ力」は、どうすれば身につくのだろう。

「野菜4割、ヨーグルト(乳酸菌)1割、そして運動が5割ぐらいの重要度です。よく歩き階段も一日100段上り下りを心がければ十分鍛えられる。あとは食物繊維たっぷりの野菜を一日350グラム以上(厚生労働省の推奨摂取量)摂り、ヨーグルトもたくさん食べることです」

 こう語る辨野博士自身、若い頃は肉とワインが大好きな一方、野菜とヨーグルトが嫌いで50歳になる頃には体重88キロ、コレステロール値400超で健康診断では「要治療」状態だった。一念発起して毎日野菜をスープなどにして大量に摂り、ヨーグルトを300~500グラム食べる生活を続けたところ、2年後には体重が72キロにまで減り、体脂肪率も10ポイント減少。ウンチのにおいや体臭も減り、何よりも若い頃から悩まされてきた花粉症の症状まで軽くなったことに驚かされたという。

 実際、2010年から男女とも平均寿命トップレベルを維持している長野県は、一日の平均野菜摂取量が男性379グラム、女性363グラムと厚労省の推奨量を上回り、逆に平均寿命最下位の青森県は男性292グラム、女性275グラムとデータでも裏付けられている。

 花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状の抗原や病原ウイルスから身を守る免疫システムのおよそ7割が腸に集中し、この分野での研究も進む。(編集部・大平誠)

AERA 2018年1月29日号より抜粋