元防衛省高官は「わからないから最悪の事態に備える」と語る。16年の防衛費は中国が推定2150億ドルで日本の4.6倍。差は年々開く。だから防衛省には、中国の攻撃を防ぐため、世界一の米国(6110億ドル)を西太平洋に引きつけつつ、自身でも対処できる兵器の調達をという焦りがある。

 今年は防衛政策の指針である防衛大綱の見直し論議も本格化する。安倍晋三首相は「従来の延長線上でなく、国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めたい」と官邸主導で進める姿勢を示す。新年度予算案ににじんだ対中防衛色が強まる可能性がある。

 だが、防衛政策の前提になる日中関係全般の議論はお寒い。国家安全保障戦略は5年前に安倍内閣が作ったきり。「戦略的互恵関係を強化」といった抽象的な言葉はあるが、共産党支配や米中関係の今後といった日本を揺るがす要素への考察や、それをふまえ中長期的にどう対応するかという戦略は見えない。

 日米安保協議の歴史に詳しい近畿大学の吉田真吾講師は、「冷戦には、経済大国となった日本に支えられた米国がソ連に勝ったという面があった。今の中国は国際構造上、かつてのソ連と似た立場にあるが、同様に抑え込めるのか。それぞれの国力もふまえ日米で対中戦略の議論を深める必要がある」と話す。

 官邸主導の防衛大綱見直しについて、「米国から兵器を買えばトランプ政権と関係がよくなるという話にならないか」と危ぶむ声も防衛省にある。米国製の中国向け兵器やIAMDに飛びつく前に、骨太の対中戦略を示すのが官邸の仕事だろう。(朝日新聞専門記者・藤田直央)

AERA 2018年1月29日号