「条件設定」は、音叉の振動の状態が二つあることにかかわる。音叉が音を出すとき、U字形の腕が互いに逆方向に動く振動状態(逆位相)と、同じ方向に動く振動状態(同位相)がある(図下)。どちらかで答えは違ってくる。出題された問題は最初に「音叉が音を発するときは、2本の腕は互いに逆向きに振動し……」と示している。逆位相を考えているわけだ。続く問いでもその条件と思うはずだ。

 しかし、出題者たちは、そう考えていなかった。今年1月12日に追加発表された文書「理科問題(物理)[3]Aの解説」によると、問4では、条件設定がなくて逆位相、同位相の両方の状態を考えるから「複数(三つ)の答え」が可能とし、食い違った答えを全て正解とした。さらに「問5は同位相での振動を前提として作った」とした。

 これには、受験界だけでなく、大学で教え出題する可能性もある物理学者たちも猛反発した。

「後出しジャンケンみたいな論理だ」「間違った出題であったとは認めない子どもの言い訳」……まだ問題は収まっていない。

 出題者たちは、この「出題ミス」にどうして気がつかなかったのか。何回もの外部指摘をどうして理解できなかったのか。内幕はまだわからないが、出題の形式という面もあったのではないか。この[3]の問題に対する答案は、思考の筋を追って答えを書いていく「記述式」ではなく、空欄に式や数値を入れていく方式である。

 記述式は採点が複雑だが、受験生の思考をきちんと捉えていくから、今回のような場合でも、受験生が何に戸惑ったかがわかり、出題ミスであるというフィードバックもあり得ただろう。ただ、大学にはもう記述式の答案をきちんと採点できる余力はないのかもしれない。

 この出題ミスの裏には、大学自体の衰退が隠れている可能性もある。それは大学全体、あるいは日本の教育全体の責任である。(科学ジャーナリスト・内村直之)

AERA 2018年1月29日号