「学食にカツ丼がないんですよ。埼玉・大宮の自宅から1時間半かけて通っていますが、地元にはこういう店はもうあまり見かけない。でも、高崎には個人経営のファミレスもあって、大勢だとそちらにも行きますね」

 30年ほど前に高崎経大を卒業し、電機メーカーに勤務する田村知之さんも、ボリュームたっぷりのからさき食堂にはお世話になった口だ。さらに忘れられない味として絶メシリストに載る、からゐ屋のカレーを挙げる。

「僕は東京育ちですが、本格的なインドカレーなどまだ食べてもいない頃に、高崎でらしきものに出合った。しかも、大盛りにすると米2合分は優にある。いつも一番安い500円のチキンカレーの大盛りでしたね」

 これがいまだに700円。25年も価格は据え置きのままという。からゐ屋のマスター、宮内信正さんは御年75。だが、また矍鑠(かくしゃく)としている。

「大盛りの量は高崎経大のアメフトやラグビー部の連中からの要望で、どんどん増えちゃった。メニューもそんな感じで次第に増えましたよ。店を開けた当初は客もそんなに来ず、彼らには助けられたんでね」(宮内さん)

 からゐ屋のカレーは小麦粉を使わず、玉ねぎを炒めて甘みととろみを出すが、スープストックもしっかり使うので、あくまで「インド風」のオリジナル。これまでも学生などにそのレシピの開陳を求められたこともあった。豪放磊落(ごうほうらいらく)な宮内さんはその度にメモを渡したという。

「調合スパイスは袋に入れてやってね。でも、味見してくれーって持ってくるのはまるで違うもんなんだよ。カレー屋を始めたいという人にも、スパイスの調合は店の個性になるから、それ以外は全部教えてあげた」

 しかし、その店は1年と持たずにコンセプトも店名も変えたという。一人娘もいて夫人とともに店を手伝うが、継ぐ気はないのだとか。だから、「長くもってあと5年か10年」と宮内さんは豪快に笑い飛ばした。(ジャーナリスト・鈴木隆祐)

AERA 2018年1月22日号より抜粋