その後、安アパートで一人黙々と小説を書いていたが、それだけでは食えず、スーパーでレジのバイトをした。

 自分は仕事ができない、と思いたくなかった。普通の人ができることをできる人間だと思いたかった。

 ところが、レジ打ち以外の、途中で売上金を数えたり、閉店後にレジを締めたりという仕事が、やはりうまく理解できず、混乱し、いづらくなって、これもふいっと辞めた。

●何度説明を聞いても仕組みを覚えられない

 そのすぐ後に小説の新人賞を獲り、何冊か本も出し、雑誌でこまごまとした記事を書きながら、何とか生きてきた。しかし、小説が書けなくなってしまった。それで冒頭に書いたように、働くしかなかったのだ。

 その後もありとあらゆる場面で、「戦力外通告」を受けた。牛丼屋では昼間の注文の激しい時間帯を避け、夜の掃除専門で入った。そこで年上の女性から「掃除がのろい」と怒られた。私は怖くなって、懸命に早く掃除を終えるようにした。すると今度は「掃除した後がひどく汚い」と言われた。彼女は人をいじめるタイプではない。ただ、私のあまりにひどい働きぶりに業を煮やしているのだ。

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