この祭りをモデルにしたとされる映画がある。2001年に公開された「千と千尋の神隠し」(宮崎駿監督)だ。10歳の千尋という少女が、神々の世界へ迷い込んでしまうというあらすじ。物語に登場するのが八百万の神々が客として通う「湯屋」だった。

 祭りの行われている本堂から一歩外に出ると、そこは闇の世界だ。街灯はおろか周囲に光を放つ人工物が一切ない。気温は0度。闇が支配した谷を轟々と音を立てて風が渡る。かつて炭焼きや林業でにぎわった村も、今では限界集落になった。最年少で祭りに参加する野牧和将さん(39)は今もこの村に暮らす。

「南信州では下栗に嫁に行くなという言い伝えがあります。日照時間が長く、労働時間が長いためです。自分が生きている間にこの村が消えてゆくとしたら、ここで暮らしていた人や、この祭りのことを後世に伝えるのが役割と思っています」

 森羅万象に神が宿る宗教観が、今も地域の暮らしを支える精神的な支柱となっている。(ノンフィクション作家・中原一歩)

AERA 2018年1月15日号より抜粋