小さな切手から様々な意味を読み取ることができる。

 駆け足で記念切手の歴史をたどろう。高い人気を誇る名作切手「見返り美人」は48年、「月に雁」は49年の発行だ。50年代中ごろには記念切手を買うため、郵便局の前に早朝から列ができた。57年にはグリコのおまけに切手引換券が登場。子どもたちの間にも切手ブームが起こった。

「日本社会が豊かになり、手軽にできる投機が記念切手だったのだと思います。デザインでいうと、色数も増え、博覧会や美術展を記念した切手も登場します。戦前の切手が国家中心だったのに比べ、戦後の切手は個人主義へと変化していきます。切手は時代のうつし鏡なのです」

 61年から64年まで、東京オリンピックに向けて作られた寄付金付き切手も目を引く。

「5円切手に5円の寄付。倍の金額で、あり得ない額の寄付がついている。国家の意気込みと支える人々の気持ちが伝わってきます」

 だが、石油ショックを経て社会が成熟期に入ると、切手も繊細で洗練されたものになっていく。

(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年1月15日号より抜粋