「それはないです(笑)。監督はマノロと40年来の知人で、その関係から映画が生まれました。ただ我々もSNSの台頭でブランドに対する人々の興味の質が変化してきたと感じています。みんな商品が出来上がる過程や、デザイナーのキャラクターを知りたがっているのです」

 前出の宮田さんも同意見だ。

「いま有力ブランドは競って“ストーリー”を打ち出しています。世界的にファストファッションが広まるなか、彼らはブランドの歴史や、職人による“ものづくり”を見せることで、大量生産との差別化を図っている。映画は格好のツールなのです」

 さらにマノロとドリスには大きな共通点がある。どちらも巨大企業に属さず、自らの名前を冠したブランドを守り続けていることだ。こうしたブランドはいまや稀有な存在だと、ドリス・ヴァン・ノッテンの広報は話す。

「マーケット寄りの“売りやすい、無難な服”が蔓延するなか、ドリスは一つひとつのものづくりを丁寧に行い、すべてに自身の感性と世界観を貫いている、数少ないデザイナーです」

 宮田さんも指摘する。LVMHグループを筆頭に、ブランドの巨大企業化が進んでいます。企業傘下に入れば経営は安定しますが、売り上げもシビアに求められる。デザイナーの自由度も制限されます。いま老舗メゾンではデザイナーが短期間でコロコロ代わっています。創業デザイナーが10年ほどでブランドを売り払うケースも多いのです」

 デザイナーが忙しすぎることも問題になっている。

「春夏(9月)と秋冬(2月)の2大シーズンに加え、セール前の6月と11月にもコレクションを発表するブランドが増えている。デザイナーが疲弊している状況です」(宮田さん)

 デザイナー、ブランドはどうすれば生き残れるのか。

「いま消費者は単に『オシャレだから』では動きません。例えばドリスは毎シーズン必ず刺繍を取り入れ、インドの職人たちに安定した雇用を供給している。服を買う人はフェアトレードによる社会貢献の満足感も得られる。『流行が過ぎた服の処理方法』も、環境問題への企業の取り組みとして関心が向いている。そこに価値を見いだす人は今後も増えていくでしょう」

 ものづくりの原点にこだわり、ぶれずに、自分を貫く。自然とともに生きる。現代を生き抜くヒントを二人は教えてくれているようだ。(ライター・中村千晶)

AERA 2018年1月15日号