東京・大手町のオフィス街。重機がフル稼働する再開発エリアの一角だけが保全されている。平安時代の武将、平将門の飛んできた首を祀ったとされる史跡「将門の首塚」の敷地だ。

 ここは単なる聖地ではない。「撤去しようとしたGHQ(連合国軍総司令部)の重機が横転した」など、たたりがあるとの言い伝えも残る。首塚にお尻を向けて座らない会社もあるとか。近くのオフィスで働く男性(59)は言う。

「取引のときは社内に祀っているお稲荷さんに祈ります。ここに来るのは周囲が不幸や災厄に見舞われたとき。商売っ気がない、武骨な神さまという印象。そこが魅力なんです」

 先行き不透明な時代が人々を「祈り」に向かわせるのだろうか。国学院大学の石井研士教授(宗教社会学)はこう見る。

「日本人の宗教性の特徴の一つですが、神仏に祈って、うまくいかなくても呪詛(じゅそ)はしません。自分を超えた何者かにこうべを垂れ祈るとき、真摯(しんし)な心の状態になるんじゃないでしょうか」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2018年1月15日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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