「仕事は楽しいわけでも、達成感があるわけでもありません。でも、時給千円の新しい仕事を始めるよりは慣れている仕事のほうが楽かなと思って」

 嘱託は1年契約で65歳まで。しかし定年の70歳延長などが取り沙汰されている昨今、

「自分がいったい何歳まで働くことになるのか。いまは見当がつきません」

 そう女性は苦笑する。

 定年の情景が変わりつつある。雇用延長によって「定年のボーダー」が見えにくくなっている。加えて、男女雇用機会均等法の施行以降に入社した女性たちが50代に入り、今後「定年女性」が増えていくと見られている。現在は年間約10万人。第一生命経済研究所の的場康子さん(50)は定年人口が男性に比べ少ない理由を次のように説明する。

「いま定年を迎えている女性はシングル率が高いのが特徴です。女性は結婚や出産などで就業中断や転職を繰り返し、定年退職が適用されない雇用形態で働いていたり、定年制度のない小規模な企業に勤めていたりするケースが多いためと考えられます」

 同研究所の調査では定年後の再就職について、男性の7割近くが時間をかけずに勤務先による紹介などでスムーズに決めているのに対し、女性はハローワークやインターネットなどを使い、自力で探しているケースが多いことが明らかになった。

「男性に比べ女性は、定年後のバックアップ体制が十分整えられていない現状が浮き彫りになりました。これからの課題です」(的場さん)

 定年後というと、「濡れ落ち葉」の言葉に象徴されるような、生きがいを見いだせず鬱々と過ごす姿がひとつの定型として浮かぶ。これは男性に特有のものなのか。冒頭の女性は、趣味の伝統芸能の活動にいそしみ、週に3日はかつての仕事仲間とランチ。定年後の生活を楽しんでいる。女性は言う。

「男性も女性も同じです。シングル女性の定年仲間のなかには『何をしたらいいのか、わからない』と始終ぼやいている人もいます。スポーツクラブに通いたくても、主婦の人たちの派閥ができていて入れない、と言います。会って話すのは、古き良き時代の仕事の栄光話。おじさんたちと変わりません」

(編集部・石田かおる)

AERA 2018年1月15日号より抜粋