「社内の先輩はもちろん、日立の人、東芝の人にもよく教えてもらった。みんなで飲みに行っても技術の議論ばかり……」

 モノづくりの熱気が技術者に溢れた時代だった。

 当時の寺西に与えられた仕事は「イメージセンサーの高画質化を妨げている画像のキズを消せ」という長らく残っていた難題。消すには、半導体の中で走り回る電子の動きを徹底的に追わないといけない。ここで大学で学んだ統計力学が役立った。

 つまり寺西の功績とは、こういうことだ。製品の小型化・高機能化が常に最重要課題のため、半導体工学では「小さく詰め込め」が合言葉。なるべく小さな素子を作り、高集積化するという狙いだ。そのために、センサー内で電子をためる部分もなるべく薄くするため、「使える電子」の数は少なくなる一方だった。ギリギリの人数の、ブラック企業みたいなものだ。ここで寺西は理論的な解析からこの点に気づき、80年に「電子を多くする不純物を含む層を素子に付け加えたらどうか」と提案。それまでの集積回路工学の「常識」に反したアイデアだった。

 技術者が熱くなれば、会社も熱くなった。上司に報告すると「すぐに特許を書け、そして実験も……」と指示が下り、不純物層の厚みをいろいろ変え、作ってみた。センサーの前で手を振って像が尾を引く残像が出るかどうかも試した。「よさそうだ」。残像も暗電流も消え、一つの画素の大きさを小さくする高解像度化もできたのだ。これが今回の工学賞受賞の対象となった「埋め込みフォトダイオード」の発明である。

 商品化はそれから7年後。完成した画質を以前のものと比べると、例えば、人の顔のアゴのところのようにちょっと暗くなった部分の画質は格段に良くなった。この寺西の発明は、競合する他社のイメージセンサーにも広く採用された。

 そして92年、今回の受賞者の一人である米国のエリック・フォッサムは、よりコンパクトに作れる「CMOSイメージセンサー」を開発。今やCCDと置き換わったが、寺西の「埋め込みフォトダイオード」はこのCMOSでも画質改善に必須の技術として採用が続く。今誰もが使っているスマホやデジカメの中に寺西の技術があるのだ。

 イメージセンサーの需要は増加の一途をたどる。当初、応用はカメラ画像だけだったが、今では内視鏡や虹彩による個人認証、あるいは自動車の障害物発見など、いろいろな「情報」を得る方法として、広く利用されているのだ。(文中敬称略)(科学ジャーナリスト・内村直之)

AERA 2018年1月15日号より抜粋