今、寺西はX線イメージセンサー開発などを目指し実験を重ねている。兵庫県・播磨科学公園都市の兵庫県立大学ニュースバル放射光施設で(撮影/内村直之)
今、寺西はX線イメージセンサー開発などを目指し実験を重ねている。兵庫県・播磨科学公園都市の兵庫県立大学ニュースバル放射光施設で(撮影/内村直之)
デジカメなどの中に入っているイメージセンサー。光の信号を電子信号に変える半導体素子がずらりと並ぶ構造をしている(写真:寺西氏提供)
デジカメなどの中に入っているイメージセンサー。光の信号を電子信号に変える半導体素子がずらりと並ぶ構造をしている(写真:寺西氏提供)

 スマホなどで映像記録を簡単に残せるようになり、社会を変えるほどになっている。その「電子の眼」の基礎を創った日本人技術者がいる。なんと筆者の大学・大学院の同期生。このほど最高峰の賞を受賞した。

【写真】デジカメなどの中に入っているイメージセンサー

 2017年12月6日、いまや欠かせない先端技術の礎を創った4人に、工学では最高と言われる英国の「エリザベス女王工学賞」が授与された。その技術とは「電子の眼」とも呼ばれる半導体イメージセンサー。受賞者の一人はこのセンサーでデジカメなどの画質を根本的に変えた日本人技術者、寺西信一だ。ロンドンのバッキンガム宮殿でチャールズ皇太子からトロフィーを受け取った寺西は言う。

「画期的で日常に必須な技術は多くあるけれど、その中に私たちの開発したイメージセンサーが選ばれたのはとても幸運。若い人たちが技術やモノづくりに興味を持つよう激励したい」

「電子の眼」の需要は伸び続けている。10年代中頃に、イメージセンサー素子の年間販売個数は40億個といわれたが、その後の人工知能(AI)時代、あるいはインターネットに自動車や電気製品がつながるIoT時代を迎え、世界で数百億の「電子の眼」が利用される社会になるという。だがこんな展開はここ40年ほどのことだ。

 家庭用ビデオテープレコーダーが普及しつつあった1970年代後半、電機メーカーが次に目指したのは、自ら動画を撮影し自宅で楽しむ家庭用ビデオカメラだった。当時、放送業界で使われていた撮像管は、大型で重いうえに高価だった。ラジオやテレビが真空管からトランジスタ、ICへと切り替わり安価に大量に普及したのと同じように、画像をとらえる装置の基礎も、半導体製のLSI(大規模集積回路)に置く必要があった。問題はスクリーンに映った画像の平面に並んだ電子信号を、どうやって一列に並べて順次送り出し、デジタル信号にするか、ということだった。

 実はこの課題、クリアするための基礎はすでに米国で発明されていた。こんな名称を目にしたこともあるかもしれない。電荷結合素子(CCD)だ。

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