作品を販売し生計を立てるアーティストにとって、モノの不在は不都合なことだ。だが、開発氏は、「このQRコードを使用し、モノとしての作品が存在しない展示を行うことで、モノを巡って何か(新しい変化)がスタートしていることを体感してもらいたかった」と言う。

“体感”は一つのキーワードだ。会場で同じ作品を再生している人々のスマホから流れるサウンドが、微妙なタイムラグを伴い室内に反響する。このことで観客は「クラウド時代は、時間はリニアに流れるのではなく個別に存在する」ことを体感する。

●美術と日常の組み替え

 開発氏には、地域のアート祭からの出展オファーが引きも切らない。昨年は種子島宇宙芸術祭(鹿児島県)、大地の芸術祭夏(新潟県)、六甲ミーツ・アート(兵庫県)に招聘され、それぞれでオリジナルの作品を発表した。人気の秘密は、開発氏の作品は普通の人々の暮らしから題材を得て、美術と日常の境界を組み替えるようなインスタレーションが中心だからだ。

 2001年、9.11直後のニューヨークではグラウンドゼロ付近のホコリを使用し砂絵を描いた。3.11後の福島では、政治家専用の、被災地視察用の小屋「政治家の家」を制作した。

「アーティストには人々が言語化、視覚化できないものを代弁して表現する役割があると思います。今回の個展は今のリアルに対するぼくなりの反応、クイックレスポンス(QR)なんです」

(ライター・桑原和久)

AERA 2018年1月22日号