写真:高氏貴博さん提供
写真:高氏貴博さん提供
パンダが目の前にいるような“ライブ感”が、高氏さんの写真の魅力(写真:高氏貴博さん提供)
パンダが目の前にいるような“ライブ感”が、高氏さんの写真の魅力(写真:高氏貴博さん提供)
パンダ舎のガラスに自身が写り込まないよう、いつも黒い服を着ている(写真:高氏貴博さん提供)
パンダ舎のガラスに自身が写り込まないよう、いつも黒い服を着ている(写真:高氏貴博さん提供)
高氏貴博さん(39)/埼玉県生まれ。2011年8月からブログを開始。著書に『おつかれっ! 毎日パンダ』など(撮影/写真部・小原雄輝)
高氏貴博さん(39)/埼玉県生まれ。2011年8月からブログを開始。著書に『おつかれっ! 毎日パンダ』など(撮影/写真部・小原雄輝)

 赤ちゃんパンダのシャンシャンが歩いた。登った。じゃれた……。その愛くるしい一挙一動に胸をキュンキュンさせている人は少なくないはず。抽選による限定だが、上野動物園での公開も始まった。パンダはなぜこうもかわいいのか? その魔力にとらえられ、いつしか生活がパンダと共にある「パンダフルライフ」に陥る人もいる。ウェブデザイナーの高氏(たかうじ)貴博さん(39)はそのひとり。雨の日も、風の日も、雪の日も、パンダ舎の前にこの人の姿がない日はない。2011年8月から毎日通い、ブログ「毎日パンダ」に撮影する写真をアップしてきた。

【写真】桃のような大きなお尻はこちら

 くすっと笑える、人間くさいパンダの表情や仕草が人気で、ブログの通算日数は2千日を超える。高氏さんがパンダフルライフに陥ったのは、たまたま仕事の空き時間に上野動物園に立ち寄ったのがきっかけだった。

「パンダ舎に行ってみると、シンシンは寝ていて、桃のような大きなお尻が目に飛び込んできました。なんて自由で、面白い動物なんだろうって、心を奪われました」

 通ううち、2頭の顔の見分けがつくようになり俄然面白くなった。性格の違いもわかるとさらに深みにはまった。平日は都内の会社に勤務する高氏さん。埼玉の自宅から出社前に動物園に立ち寄ることが多い。11月の秋晴れの日、撮影に同行した。待ち合わせは上野駅に9時20分。開園少し前の動物園に着くと、入り口には修学旅行の団体客がすでに長蛇の列をなしていた。

 9時30分に開門し園内に入ると、顔なじみの警備員が「(パンダは)屋外にいますよ」と高氏さんに声をかける。到着するとすぐに撮影開始。しかし3分もするとパンダ舎の前には団体客の大きな人垣ができた。すると高氏さん、後方に退き待機。人波の途切れるタイミングを見て、再び撮影……という具合に繰り返した。

「人波をかき分け撮影することはしません。他のお客さんの迷惑や邪魔にならないよう、マナーは守りたいので」(高氏さん)

 この日は1時間で切り上げ会社に向かった高氏さんだが、2時間近くかかることもあるという。シャッターを切っている時間は数分。大半は人波の途切れる「待ち」や「列並び」に費やされる。ブログへの写真アップは、夜、帰宅後だ。1日に約千枚撮影するため写真を選ぶのにも時間がかかる。ときには更新が午前0時をまわることもあるが、それでも翌朝、また上野へ。これを毎日繰り返しているというが、しんどくなることはないのか? そこまでさせるパンダの魅力は何なのだろう。

「他の動物のように“必死さ”を感じさせないところですね。本人たちは一生懸命なのかもしれませんが。ゆるい感じで、いつもリラックスしている」

 パンダを見ていると、気持ちに余裕のないときでも、柵の向こうの「パンダ時間」に没入できる。6年間、毎日顔を合わせてきたリーリーとシンシンはいまや高氏さんにとって家族のような存在。2頭の子であるシャンシャンへの思いもひと一倍強いが、会えても会えなくても「毎日パンダ」は変わらない。

「オスのリーリーにはいままで通り会えますし。僕が撮っているのは彼らの成長記録であり、日常ですから」(高氏さん)

(編集部・石田かおる)

AERA 2018年1月1-8日合併号より抜粋