でも本当の校歌はそれぐらいで、『ふしぎなえ』『ABCの本』で少年少女の心をわし掴みにし、『算私語録』『本を読む』でインテリを唸らせ、2012年には文化功労者となっている。ただし、行き過ぎた言葉遊びの“前科”もある。

「昭和45年の年賀状、小金井刑務所の囚人になりきって、『今年は真人間になってまじめに働きます』と書いて、住所を小金井刑務所の独房にした。冗談だとわかると思ったけど、『いつ出てくるの』と妻が聞かれたり、姉は『光雅が余計なことをするから、親戚の縁談に差し支えるわ』と怒ったり、子どもに罪はないと、息子を励ます先生まで出てきて、申し訳なかったね」

 数学の世界が大好きな安野さんらしく、鶴亀高校の校歌が表紙にもなった。

「めでたい 明るい 鶴亀高校 年を合わせりゃ数千万」

 若い頃、安野さんは小学校の先生を10年ほどしていたことがある。鶴亀算を教え、アリの研究をし、放課後には大根おろしとサツマイモを煮込んで飴づくりをした。

「失敗ばかりだったけど、子どもは楽しそうでした。先生になってなかったら、こういう本は作らなかったかな」

 合計38校の校歌が載っているが、どの学校の校長も安野さんなのだろう。(週刊朝日編集委員・村井重俊)

AERA 2018年1月1-8日合併号