藤井聡太四段の影響で将棋を始める子どもが増えているという(※写真はイメージ)
藤井聡太四段の影響で将棋を始める子どもが増えているという(※写真はイメージ)

 藤井聡太四段の効果で将棋を始める子どもたちが増えているという。将棋ライター・松本博文氏がレポートする。

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「人生で一番緊張したときはいつですか?」

 棋士に対するそんなアンケートが、『将棋年鑑』(2017年版)に掲載されている。その中で藤井聡太四段の回答は「小2の時のJT杯東海大会決勝」だ。

 いわゆる将棋人口は長期減少にあると言われる。一方で関係者の尽力で子どもたちが将棋を指し始め、強くなるための道筋は着実に整備されつつある。子どもたちが参加できる大会が増えたことも、その成果の一つだ。

 テーブルマーク(元JT)こども大会には、毎年多くの小学生が参加している。低学年と高学年の部に分かれてトーナメント戦があり、激戦を勝ち抜いて決勝に進んだ2人は、壇上で決勝戦を指すことができるのだ。着物(少年であれば袴)を着させてもらって、多くの観客の前で棋士が大盤で解説もしてくれる。小学生強豪にとっては夢のような、晴れの舞台だ。

 小2だった藤井少年が東海大会・低学年の部に出場したのは10年で、決勝まで進出した。緊張の面持ちの小さくあどけない藤井少年の姿は、映像にも残っている。対局中、少年は駒をただで取られる大きなポカをして、壇上で泣き出した。今では大一番で多くのマスコミに囲まれても物怖じしない藤井だが、そんな時代があったのだ。棋士に憧れる少年は、わずか数年で、逆に少年たちに憧れられる棋士となった。

 そしてさらに変化が起きている。17年、藤井ブームの影響で将棋を始める子どもの数が大幅に増加しているのだ。各地の将棋教室からは、嬉しい悲鳴が上がるほど多くの参加希望者が押し寄せているという。

 11月19日に幕張メッセ(千葉市)で開催されたテーブルマークこども大会の東京大会。約9千人の親子らが会場を埋め尽くした。家族が遠巻きから見守る中、約4千人の少年少女が対局。一斉に始まると、激しいにわか雨が降ってきたかのように大きな駒音が響き渡った。

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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