浜矩子「日本の若者の日本株市場への里帰りを、ひたすら喜んでいていいのか」

連載「eyes 浜矩子」

AERA#浜矩子
浜矩子「日本の若者の日本株市場への里帰りを、ひたすら喜んでいていいのか」(※写真はイメージ)
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浜矩子「日本の若者の日本株市場への里...

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

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「日本株買い始めた日本人」。新聞紙面をこの見出しが飾っていた(12月20日付日本経済新聞朝刊)。バブル崩壊後、株式市場をすっかり敬遠するようになった日本の個人投資家たち。その彼らが、次第に株式市場に戻ってきているのだという。

 上記の「その彼ら」という言い方は実は正しくない。「その彼らの次の世代」というべきだ。親の世代は、羹に懲りて膾を吹くようになった。だが、今の世代は違う。伸び伸びと日本株買いに乗り出しているらしい。

 これはこれで、一つの注目すべき変化ではある。過大な恐怖心に制約されることなく、若い世代が株式投資に挑戦する。そのこと自体は一義的に悪いとは言えない。もっとも、筆者はさしていいことだとも思わない。喉元過ぎれば熱さを忘れるのと、羹に懲りて膾を吹くのと、どっちがまともか。それは、やっぱり後者だろう。前者のほうが大けがをする確率がはるかに高い。

 だがそれはそれとして、この記事について最も気になったのは、株を買う人々の行動原理の問題ではない。この記事がもう一つの重大なテーマに全く触れていなかったことだ。

 今の日本の株式市場においては、日本銀行の存在感があまりにも大きい。日本経済新聞もしばしばそれを指摘している。いわゆるETF(株価指数連動型上場投資信託)の購入を通じて、日銀はいまや、とびきり大口の株式投資家となっている。いわゆる量的・質的金融緩和の下で、日銀のETF購入規模は逐次増額されてきた。株価が高いので、さすがにこのところは購入を少々手控えている。だが、基本方針としては年間6兆円という買い入れ水準を掲げ続けている。

 このような大口投資家が存在すれば、株価の動向は、当然ながら、その投資行動に大きく規定されることになる。今の株高は、端的に言って完全な“日銀相場”だ。そのことを新世代の投資家たちは理解しているか。日銀が売りに転じざるを得なくなった時、何が起こるか。それを彼らは認識しているのか。これらのことに言及することなく、若い日本人たちの日本株市場への里帰りを、ひたすら喜んでいていいのか。筆者なら、今は帰って来るなと言う。

AERA 2018年1月1-8日合併号

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浜矩子

浜矩子

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

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