佐山氏は、自らの経験を振り返り、遺言は「相続トラブルの予防注射」だと強調する。しかし、遺言を書き残す人は、日本では圧倒的に少数派だ。

 税理士法人レガシィの独自調査に基づく報告書によれば、相続税の課税価格が5億円以上の資産家でも、遺言を作成した割合は、2016年でわずか18%。13年からの4年平均でも22%にとどまる。全ての課税価格を対象にすると、16年で11%とさらに縮小し、13年からの4年平均も11%のままだった。全体の10人に1人しか遺言を作っていないことになり、佐山氏の持つデータとも一致する傾向だ。

 レガシィの大山広見税理士(55)は、「遺産分割の話は、遺言がなければもめるので、レールは敷いておいたほうがいい」と、遺言作成を推奨する。同報告書にも「遺言書によって、もめ事を減少、回避することができる」と書かれており、これは税理士や行政書士、弁護士といった相続問題の専門家たちの一致した見解だ。

 米国では当たり前となっている遺言が、日本で浸透しない背景について、佐山氏は死を前提とした強烈なマイナスのイメージがあると見ている。

「同じく死を前提とした生命保険には多くの人が違和感なく入る。これが不思議でたまらない。遺言も同じ生活設計だという考え方を広める必要がある」

(編集部・山本大輔)

AERA 2017年12月25日号