不仲な弟だからこそ、相続になればトラブルが起きるのは予測できたわけで、もっと何年も前から相続準備を始めるべきだった。遺留分にあたる金額を用意するため、日々お金をプールすることだってできた。正しい準備さえしていれば、不動産を手放すことなく、弟との相続問題を解決できた可能性はあったはずだと、同僚は弁護士に言われたのだという。
のぼる「う~ん、複雑な問題だなぁ。でも、だからこそ、うちでも相続の準備を今から始めようと思ったんだね。そのための家族会議ってわけだ」
たかし「その通り。早くからの準備が大切なんだ。その準備の一環で、一緒に相続を考える家族会議は意味があると思う。備えですよ。備え」
しげ「なんや難しい話やな。たかしさんが死んだら、わたしも相続できるんかいな」
たかし「お母さんには、相続できません。もし僕がいま死んだら、相続できるのは配偶者のまつ子と、子どもの、のぼる、のの子だけ。誰がどれだけ相続できるのかは、法律で細かく決まっています。歯医者からの帰りに本屋でAERAを買ってきたから、読んでもらえれば、その辺も詳しく書いてありますよ」
のぼる「どれどれ。ん? いや、できるみたいだよ。そうAERAに書いてある。お父さんが『おばあちゃんに財産を残す』と遺言に書いておけば、お母さんと子ども以外でも財産を残せるみたい」
しげ「ほんまかいな。でも、たかしさんの遺産は、まつ子と子どもたちで分けたらええ。だいたい、遺書なんて縁起でもないわ」
のぼる「遺書じゃなくて、遺言。全然違うものみたいだよ」
たかし「遺言は法的に大きな力があるから、書いておいたほうがいいみたいですね」
まつ子「そやかて、お父さんの財産、なんもあらへんやろ。借金、引き継いでもなぁ」
たかし「相続を放棄する権利も認められているから、借金のような負の財産は放棄すればいい。それにオレにも財産はある。この家はオレが建てた! でも土地は、おばあさんの所有になっているなぁ」
しげ「わたしが死んだら、この土地は、大黒柱のたかしさんのものになるんやろ?」
たかし「いや、おばあさんの財産は、唯一の子どものまつ子が相続するから、まつ子の土地になるはずだよ」
まつ子「それも、おかあちゃんが遺言で、『たかしに土地を相続する』って書けば、ええんやろ? それで、私は文句ないで」
(編集部・山本大輔、江畠俊彦)
※AERA 2017年12月25日号より抜粋