父親に預貯金はほとんどなく、今も同僚夫婦が住む2世帯住宅とその土地が、遺産のほぼ全てだった。「自分たちが住んでいる家や土地を弟と分けるなんてできない」と、困った同僚は慌てて弁護士を探して相談したが、逆に弟の主張は法的に有効だと言われた。すったもんだの末、結局は土地と家を売ってできたお金を弟と分けることになった。

 同僚は「親の面倒も見ない弟が何の努力もせずに遺産だけを持っていき、親の介護までしてきた自分は、単に家と土地を失っただけの相続だった」と嘆いた。弁護士からは「早くから相続の準備をしていれば、手段はあったかもしれない」と言われたという。

のぼる「ひどい話だね。で、ほかの手段って?」

たかし「同僚が弁護士から言われたのは……」

 その弁護士によると、2世帯住宅でも一軒家でも、不動産にからむ相続紛争というのは、昔からよくある「古典的な悩み」なのだそうだ。家族関係が良ければ、最悪でも土地の値段が上がるまで待ってから売却し、より多くのお金を得た上で分割するという合意もできた。ただ、関係が悪いと、「今すぐに売ってお金を分割しろ」という話になり、その家に住んでいる人は困ってしまう。

 どうしても家を維持したいのならば、何らかの方法で相手に認められている相続分のお金をつくり、それを代償金として支払わないと問題は解決しない。

 そもそも、同僚の父親は、遺言を作り、その中で「不動産は長男である同僚に相続する」と書いておくべきだった。仲が悪くても弟は同僚と同様に父親の子どもだから、法律で財産の半分を相続する権利が認められている。その法律で決められた財産分割の割合は、遺言を書けば、変えることができるからだ。

 ただし、その場合でも、弟は、本来相続するはずだった財産(全体の半分)のさらに半分、すなわち4分の1だけは最低限、相続できることになっている。これが遺留分。ならば、その遺留分にあたる財産だけは遺言で弟に相続すると書いておけば、弟が争う法的根拠はなくなるはずだった。

次のページ