ソチ冬季五輪で銀メダルを獲得したスノーボード女子アルペン・竹内智香選手が「AERA」で連載する「黄金色へのシュプール」をお届けします。長野五輪を観て感動し、本格的に競技をスタート。2018年2月の平昌五輪では念願の金メダル獲得を目指す竹内選手の今の様子や思いをお伝えします。

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 アメリカ合宿は今シーズン、そしてもちろん来年の平昌五輪に向けて大事な調整の場となりました。実際に競技面でも、自分の滑りの状態や新たなマテリアルとの相性等、いくつもの項目を確認することができました。

 そんな中、長年の競技生活の中で、今回初めての“体感”がありました。今までの私の滑りは、全力で滑降していく感じでした。滑っている自分も「これは速いな」という感覚になれる。ただ、今の板で滑っていると「あれ? こんな速さの体感で大丈夫かな?」と感じていても、実際には今までの道具を使った時よりも速いタイムが出ていたのです。

 アルペンとは、風を切っていくように滑る競技です。だから体でその速さを感じることが大事だと考えていました。例えるならロードバイクに乗ってスピードを感じるような感覚。ただ、今回は板に乗っている感覚が三輪車みたいに安定しているのに、タイムが出ている。安定感があって速いに越したことはないわけで、今はその状態になることができているのです。

 
 板は長さや素材を毎年変えてきましたが、今回は付属する部品の一部にカーボン素材を使っています。カーレーサーの荒聖治さんに関わって頂いて使用できた、車のボディーにも使うような耐久性の高い素材です。ソチ五輪の時はアルミニウム素材の板を使ったのですが、元々カーボンに興味がありました。ただ高価で加工にもさらにお金がかかる素材。これまではなかなか手が出なかった中、今回関係者の方々の協力で自分たちだけではできなかったマテリアルを製作することができました。

 前述したように、この板で滑るとタイムが伸びていくのに、体感的にはMAXのスピードを出すまでまだ余力がある。でも今の時点で「もっともっと!」と前のめりになると滑り自体が崩れることにもなるし、この状態で反復することも大事です。これまで100に感じたスピードが70や80と抑え気味に感じている。残りの20~30を今無理に引き上げるよりも、そこは余裕として最後まで取っておく。そんな考えも、五輪本番で強さを発揮することにつながっていくんじゃないかと思っています。

 レースになれば相手がいて緊張感もあるので、必然的に追い込まれる。そこで余裕を残している分が発揮できればいい。新たに感じられたこのプラスの余裕が、大事な時に私を助けてくれると信じています。(構成・西川結城)

AERA 2017年12月18日号

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竹内智香

竹内智香

竹内智香(たけうち・ともか)/1983年12月生まれ。スノーボードアルペン種目選手。ソルトレーク、トリノ、バンクーバーと冬季五輪に続けて出場し、2012年12月にはワールドカップで初優勝。ソチ五輪では日本人女性スノーボード選手で初のメダルとなる銀メダルを獲得。5度目の五輪となる平昌では5位入賞を果たした。

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