やれるものなら自分もやりたい。でも、「副業」にできるようなスキルも知識もない。そんな気持ちが、副業に取り組む同僚への嫉妬につながるのか。

 埼玉県の中堅メーカーで事務職に就く男性(35)の副業は、イラストレーター。面接の席でイラストを描いていることを話し、副業前提で採用された。

 彼の会社では東日本大震災以降、万一の時の安全確認のために、県外に出る時は届け出が必要になった。男性は休日、イラストの打ち合わせなどで東京に行くときも律義に届けを出していた。すると聞こえてきたのは、

「彼は東京で好きなことをやっている。本業に余裕があるからだ。みんなの仕事を彼に任せて、俺らは休みを取ろう」

 などの陰口。知らせてくれた同僚は「嫉妬しているだけ」となぐさめてくれたが、社内で副業の話はできなくなった。

 二つの職場の仕事観やモラルの違いに苦しむ人もいる。

 会社経営の傍ら、早朝から昼まで宅配会社の営業所でアルバイトをした経験のある女性(45)は当時、副業先の社員があまりに仕事ができないことに困惑したという。マネジメント能力が低く、サービスレベルの共通認識ができていないため、アルバイトが大半を占める現場はカオス状態。「アルバイトにやらせる仕事なんて、いいかげんな管理で問題なし」という意識が透けて見えた。

「本業」はコピーライターだが、それだけでは食べていけず、時給1200円でコールセンターでも働いているという大阪府在住の女性(41)は、大手企業の元敏腕営業部員。コールセンターの同僚は、顧客とのやりとりがマニュアルと少しでも違う展開になると、はた目にも気の毒なほどアタフタする。そんな彼らを、年若い正社員たちは見せしめのように大声で叱りとばす。

 ふがいない同僚と、正社員たちの居丈高な対応になんとも言えない嫌な気持ちになり、ストレス解消のためのマッサージ通いやリラクセーショングッズ購入費が急増した。これじゃ、本末転倒じゃないか。

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