311床で職員数は約500人。ロビーは狭く、建物の老朽化が進んだため、2018年5月に新築移転する予定(撮影/山岡淳一郎)
311床で職員数は約500人。ロビーは狭く、建物の老朽化が進んだため、2018年5月に新築移転する予定(撮影/山岡淳一郎)

 団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」に直面する日本。厚生労働省は「地域包括ケアシステム」を掲げ、自治体の尻を叩く。医療と介護などが連携した仕組みが求められる中、地域の住民が組合費を出し合ってつくった病院がある。ノンフィクション作家・山岡淳一郎氏がレポートする。

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 東京都心から北へ約60キロ、羽生総合病院(311床、以下羽生病院)には診療開始前から患者が詰めかけていた。人口約5万5千人の埼玉県羽生市で総合病院はここだけだ。利根川の向こうの群馬県館林市からも患者が来る。年間約3千台の救急車を受け入れる。医療が手薄な地方都市の“命綱”である。

 病院長の松本裕史(59)は、午前8時に各部門長の診療報告を受け、朝礼で短い指示を出した。続けて事務長と病院運営の打ち合わせを行う。

 その間に訪問看護ステーションから連絡が入り、「僕が執刀した患者さんだから、往診に行くよ」と答えた。松本は院長、胸部・消化器外科医、さらに訪問診療医という三つの顔を持つ。

午前9時、診療開始。羽生病院の忙しい一日が幕をあける。松本は語る。

「院長として14年前に赴任して以来、手術も、往診もやってきました。病院で治療した患者さんを、退院後も介護ケア、在宅診療などで切れ目なくお世話する。当初から徳田虎雄前理事長が、そう方針を掲げ、実践してきました」

 事実、羽生病院を中核に介護老人保健施設「あいの郷」、3カ所の「ふれあいクリニック」、介護支援センターなどがネットワークを形成。シームレスな医療、介護サービスを展開している。

●青写真と現実のギャップ 難しい患者「情報」の共有化

 近年、約650万人の団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」がクローズアップされてきた。超高齢化社会への突入を前に、厚生労働省は「病院から地域へ」を掲げ、「地域包括ケアシステム」の構築を推奨する。

 厚労省は中学校区程度の生活圏域で30分以内に住民が必要な医療、介護、生活支援を受けられる体制を整えるよう自治体の尻を叩く。羽生病院を基軸とする羽生市の取り組みは、地域包括ケアのモデル事例に入っている。

 だが、官僚が描いた青写真と現実のギャップも横たわる。一例が患者の「情報」の共有化である。地域包括ケアの質は情報が左右する。ひとりの患者の病歴や治療、介護の情報が病院や診療所、介護施設などで共有されてこそ切れ目のないケアが可能となる。

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