日本はなんと、NSAの「サイバー攻撃」の主要な舞台のひとつだ。今年4月に公開されたスノーデン文書は、米空軍横田基地(東京都)や同三沢基地(青森県)、米海兵隊キャンプ・ハンセン(沖縄県)にNSAの大規模監視設備が建設されてきたことを暴いた。横田にはアンテナ工場が、キャンプ・ハンセンには最新型の盗聴アンテナが設置され、日本の税金が少なくとも600億円以上投入されたと文書は記す。三沢では、標的のネット行動を分析し、ウイルスを仕込んだサイトに誘導して、パソコン内の全データを吸い上げるという、悪意に満ちたハッキングも実行してきた。私たちの懐から出た税金が日本政府の手でNSAに渡り、世界中の通信の秘密を脅かす監視装置に費やされてきたのだ。

 NSAはこうして他国政府も企業も協力者にして、データを底引き網式にごっそり奪う世界最大級の通信の脅威となった。

●経済的利益追求の連鎖

 しかし企業はなぜNSAに協力するのか? スノーデン氏は企業と政府の間に「自然なインセンティブがはたらいている」と言う。拙著『スノーデン、監視社会の恐怖を語る』(毎日新聞出版)に詳述したが、要約すれば、企業は通信領域を拡大して事業を広げたい。通信事業は陸揚げ局の設置などに政府の認可が必要で、政府との良好な関係が収益につながる。政府側もそれを熟知し、ある企業が協力を惜しむならライバル会社に話を持ち込むことをちらつかせてテコ入れする、というのだ。「政府としても情報にアクセスさせてくれるならば、事業拡大のお手伝いをしたい、と持ちかけるわけです」

 経済的利益追求の連鎖が巨大監視システムの構築を促した、とスノーデン氏は考える。

 だが利益追求の衝動は通信会社にとどまらない。スノーデン氏の視点からは、個人情報と現代ビジネスの最も根源的な関係が見えてくる。というのも、あらゆるビジネスがいま、個人情報の収集によって利益を拡大しようとしているからだ。人々の家族構成、収入、消費パターン、好み、関心などを事細かに分析し、ニーズを予測し、欲望を刺激することがモノやサービスを売る強力な戦術となった。

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