●カウンセラー的な側面

 実際、カタルド神父のもとを訪れるのは見るからに悪魔憑きな人ばかりではない。「雇用主が賃金を払ってくれない」といった悩み相談をする人もいる。

「エクソシズムに来る人の多くは常に悪魔憑きの状態ではないんです。神父の前でバッとその状態になり、その後は家に帰って夕食を作ることもできる。現代のエクソシストは明らかにカウンセラーや心の病の治療者としての役割を担っていると思います」(フェデリカ監督)

 島村さんも同意見だ。

「知り合いの心理学者は患者から『先生の話も聞きますから、エクソシストに紹介状を書いてください』と言われることがショックだと話していました。人々はむしろ悪魔祓いに行ったほうが気が楽だ、と考えている。しかもイタリアのカウンセラー費用は高額で、8割の人には行き場がない。教会で無料で受けられるエクソシズムは彼らの受け皿になっているのです」

 増え続けるエクソシズム希望者に対応するため、カタルド神父は集団でミサを行い、遠方の信者には携帯電話で悪魔祓いをする。こうしたシーンがエクソシストの教義に反するとして、映画はバチカンでも大きな物議を醸した。だがイタリアで悪魔祓いを希望する人は年間50万人。対して国内の公式エクソシストは241人。現実問題としてエクソシスト不足は深刻だ。

 需要に応えるためバチカンは2004年から「エクソシスト養成講座」を開催している。一般人も受講可能で、島村さんも今年8月に放送されたNHK BSプレミアム「世界神秘紀行 イタリア エクソシストvs. 悪魔」の取材で、女優の英玲奈さんと日本人で初めて講座を受講した。番組ディレクターの伊原律さんによると、講座は6日間行われ、42カ国350人が参加した。

 なぜ、悪魔祓いを求める人が増えているのだろう? 島村さんは「根本には社会不安がある」と推察する。

「ヨーロッパにおいては、まず移民の存在です。彼らが土着の宗教や価値観を持ち込み、キリスト教が揺らいでいる。加えてテロの問題。日常に起こる暴力がその不安を助長しています」

 伊原さんも話す。

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