本との出会い・つきあい方は人それぞれ(※写真はイメージ)
本との出会い・つきあい方は人それぞれ(※写真はイメージ)

 子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回は、古本屋「蟲文庫」店主の田中美穂さんです。

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 仕事柄、自身の蔵書はなるべく増やさないようにと心がけてはいるのだが、しかしもともと本が好きで始めているものだから、どうしても手放しがたいものもあるのは仕方がない。

 その筆頭が『木山捷平全集』。前回の永瀬清子と同じく、古本屋になってから親しんだ岡山出身の作家だ。どこかとぼけたような、飄々とした文章が心地よく、嬉しい時にも悲しい時にもつい手に取って読みたくなる。木山捷平の書くものの気取りのなさは、「気取る」ということを慎重に避けているような、はにかみや、少しへそ曲がりなところも感じられ、ああ、岡山の人だなあと思うことがある。

 この全集の古書価は高い。いまもそうだが以前はもっと高かった。それでも作品がひと通り読めるのならば、と10年ほど前、生まれて初めて手にした印税で購入した。本棚のお守りみたいなものなのだ。現在では講談社文芸文庫で、おおよその作品は読むことができる。(続)

AERA 2017年11月27日号