「自分たちで考えて行動する力がついていく。いい形で回っていると思います」(同)


 学生らの就職先も広がった。すでに社会を知り、指導力を発揮し、かつコミュニケーション力のある人材が求められているという手応えがある。

 松本大は、この講座のみならず、地域の力を教育に取り入れている。学内には地域づくり考房『ゆめ』を中心に、学生や地元企業、地元住民がつながる九つのプロジェクトが走る。「すすき川花火大会プロジェクト」代表で、花火大会に企画段階から参加した2年生の女子学生(21)は、やりがいを語った。

「オープニングのカウントダウンや花火まで、来た人みんなが楽しく盛り上がるよう考えました。将来は、松本が好きなので地元で企画職に就きたい」

 松本大は全学年で1600人ほどと、規模は決して大きくない。だが、偏差値も人気も徐々に上がり、今年から定員を20人増やした。住吉廣行学長は、「地域連携に古くから取り組んできた成果」と自信を見せる。

 自身は九州大学大学院修了の理論物理学者で、約30年前、まだ短大だった同大に専任講師として着任。3年限定のつもりが、当時の学長の人柄にほれた。

「世界中の学者連中と丁々発止の議論をして、論文を書くのも楽しかったが、教育者としてどんな人材を育てられるかが、自分の生き様だと思うようになりました」(住吉学長)

 難関大ではなく、入学する学生の意識も特別高くはない。彼らが目的意識を持ち、社会で問題解決を提案できるようになるには、どうすればいいか。

「学びを動機づけるには、現実を知り、興味を持つことです。それには、地域の力を使わない手はないと考えたんです」(同)

 きっかけはいくつもあった。最初は叱り飛ばされていた町会の面倒見のいい「おばさん」を、学生たちが慕うようになったこと。駐車違反し地域に迷惑をかけた学生にペナルティーとして雪かきを命じたら、近隣住民から感謝され、学生が自主的に雪かきを完了させたこと。

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