力を込めて話したのは、都内在住の未婚女性(50)。8月に亡くなった父親の納骨墓地を探している。求職活動中でもあり、一段落してからと思い、今になったという。井上理事長は言う。

「『お墓の継承』は制度疲労を起こし、生きている人を縛り始めています。後継ぎを必要としないお墓が増えていくのは確実だと思います」

 桜葬にはペットと一緒に入れる墓所も。購入を決めた夫婦が下見に来ていた。オーストラリアン・ラブラドゥードルを連れた夫(54)が言う。

「僕らは子どもがいないから、どちらかが先に逝き、どちらかが残ります。埋葬は年を取れば取るほど重いテーマになりますが、早めに不安を一つ取り払うことができ、安定感が増す人生を送れるような気がします」

 センターは生前契約による「死後サポート」も実施している。葬儀だけでなく、故人の部屋の後片づけや葬儀・遺骨の埋葬、縁者への死亡通知の送付、ガスや水道の契約解除など、死後に自分ではできないことを事前に委任契約する。井上理事長は言う。

「今は個が単位で、死後の物事も決めておかなければならない社会。私たちはモデルなき時代を生きているのです」

 センターは、一つの墓穴を4体でシェアする「お墓のシェアハウス」の募集も近く始める。他人同士、男女別の埋葬を想定。LGBTの人には、事情を踏まえて組み合わせを考えるなど相談に応じるという。(編集部・渡辺豪、野村昌二、小野ヒデコ)

AERA 2017年11月20日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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