独立してからは、少なくとも6人の子どもを仏師に育て上げる。その作風を受け継いだ子どもたちを含め、一派は「慶派」とも呼ばれる。運慶の長男・湛慶をはじめ、子どもたちの手になる仏像、また父の康慶の仏像も、「運慶」展で紹介されている。

「作品から発する存在感と、生き生きした生命力ですね」

 その作品のすごさをこう話すのは、今回の展覧会を開催した東京国立博物館の浅見龍介さんだ。仏像は彫刻と違って、姿形に決まりがある。とはいえ時代や仏師の個性、特徴が表れる部分も、実は意外に多いという。

 例えばフォルム。運慶作品にならって実際にポージングすることで、運慶作品のパワーの秘密を探った「北斎ヨガ」考案者のオカザキ恭和さんはこう話す。

「実際にやってみると、衣のなかの見えない足腰も重心を片方に乗せているなど、人が自然にしているポーズが多かったです」

 ほかにも、表情から、指の開き方、両足の開き方まで、仏様でありながら自然で、人間的なところもあるという。

「肌の質感もつるんとしていて張りがあり、とても若々しい。これも、運慶の仏像が今にも動き出しそうに見える秘密かもしれません。立像は胴体にアシンメトリーの程良いひねりがあり、より人間らしい動きが出ていて、自分たちに近しい仏様というイメージを持つ人も多かったのではないでしょうか」

 運慶の仏像は、リアルな表現でも知られる。

 前出の浅見さんも言う。

「同時代に名を成した仏師に、きょうだい弟子の快慶がいますが、この二人の作風は対照的です。快慶は正面から見ることを重視した、言うならば絵画的な美しさ。一方の運慶は、現実感を追求した表現で、立体的な造形に優れていた」

(ライター・福光恵)

AERA 2017年11月6日号より抜粋