稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
参考にこんな本を読んでみました。一般的な定年後の暗さに改めて驚く(写真:本人提供)
参考にこんな本を読んでみました。一般的な定年後の暗さに改めて驚く(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣えみ子さんが参考に読んだ本はこちら】

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先日、婦人公論の企画で「女の定年後」をテーマに座談会が開かれまして、一足早く会社を卒業したセンパイとおだてられノコノコ出席したアフロであります。確かに言われてみれば、私はただ「会社を辞めた」つもりだったんだが、制度上は選択定年という名前がついていたっけ。

 そうか。私は今「定年後」を生きているのだな。

 改めてナルホドと思ったのは、男女雇用機会均等法が施行された時代に入社した我々世代も50代半ばということ。つまりは間もなく「定年後」に直面する女性が大量に出始めるのです。もちろんずっと女性社員はいたけれど、「腰かけ」と決めつけられて「女の花道は寿退社」という時代が長かったからね。

 となると、定年後の男性を「濡れ落ち葉」と冷ややかに見ている場合じゃありません。変化に強いと言われる女性ですが、様々なハンディの中を勤め上げる過程で会社に身も心も捧げた人が案外少なくないやもしれぬ。となれば人生100年時代、長い老後をどう生きるかはまさに待ったなしの国民的課題です。

 で、定年後を生きる先輩として偉そうに言わせていただくと、退社後は人生を明るくするのも暗くするのも自分次第。逆に言えばもう会社や上司のせいにはできません。

 だからね、肝心なのは「マイルール」の確立。会社員時代の価値観のまま生きちゃいけませんぜ。だって収入も肩書もガックリ減りこそすれ増えることなんかないからね。長い人生後半を恨み節で埋めたくなければ、一番簡単なのはそれまでの価値観をそのままひっくり返しちゃうこと。

 お金はないほうがリッチ。肩書はないほうがかっこいい。そう思うだけであらふしぎ、全てを失ったはずの自分が一瞬でトップランナーに早変わり。うじうじしてる暇なんてありゃしない。え、そんなのまやかしだって? その通り! でも今の人生がまやかしじゃないなんてなぜ言えるのか。自分の価値観は自分で決めていい。そう思うだけで人生は開けたりするんだよ。だからまあ騙されたと思って。

AERA 2017年11月13日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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