ヨハンソンズさんは、アートには、人々の想像力や思考の触媒となる機能があるという。そして、自分たちを取り囲む物理的環境をどう理解するかをテーマに作品を作り続けてきた。

 この作品は、見ることも、匂いを嗅ぐことも、触ることもできない放射能を「聴覚でとらえる」ことを試みたサウンドインスタレーションだが、彼が音にこだわるのは、「聴覚のほうが、視覚に比べ、想像力を働かせるマージンが大きい」という理由からだ。

「例えば視覚についていえば、人間は、色やカタチがある物を見れば、すぐにそこからコンテクストを読み取ろうとしますが、聴覚は、より抽象的に対象を受け止めるのです」

 その音は、インタビューの間じゅう聞こえていた。電子的ではないがアコースティックでもない。単調ともリズミカルとも言いづらい。あらゆる感覚の中間にあるようなその音色を、うまく表現する言葉が見つからない。

 日本を取り巻く環境は放射能や核にまつわる話題が多い。今回の個展でそのことを意識したかを尋ねたら、こんな答えが返ってきた。

「私は、ヨーロッパでも放射性物質を作品に使いますし、政治家でもないので特定の事件については言及しません。ただ、私の作品が人々の思考のトリガーとなるなら、それは芸術家として光栄なことだと思います」

(ライター・桑原和久)

AERA 2017年11月6日号