「今回、いろいろなことに挑みながら、すごく緊張して、足がクタクタになるまで滑る幸せをすごく感じました。僕は、自分で自分にプレッシャーをかけて、それがうまく解き放たれた時に強くなれるんです」

 4回転ルッツを入れることで、プログラム全体のジャンプ構成もレベルアップする。「同じジャンプは2種類まで」というルールのもとでは、「単独の3回転ジャンプは一つになるし、得意のトリプルアクセルを2本跳べる。得点としては大きい。これだけミスを重ねてもフリー単独では1位をとれたのは、ルッツの基礎点があったからです」(羽生)

 ただ、リスクも大きい。4回転ルッツの基礎点は13.6だが、180度以上の回転不足で転倒すると2.9。3回転ルッツをきれいに決めれば最大8.1を獲得できるのだから、成功率が低いなら「回避」が得策だ。

 フォームの違う4回転を組み合わせる難しさもある。

「4回転ルッツとループは、集中の案配をうまく調整しないといけないと思いました。跳び方が全然違いますし、あちこち(フォームに)手をつけていると訳が分からない状態になる。まだ甘ちゃんです」(羽生)

「守ることも、捨てることもできる」大技なのだ。オーサーは、

「ルッツがあることでパターンが増えた。結弦の闘争心と、私の経験上のセオリーを考えて、戦略を練る」

 といたって冷静。いずれにせよ、羽生が「新たな武器」を手に入れたことは間違いない。(ライター・野口美恵)

AERA 2017年11月6日号