稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
実は今回初めて不在者投票をしました。意味なく緊張したが普通に投票できました。当たり前ですが(写真:本人提供)
実は今回初めて不在者投票をしました。意味なく緊張したが普通に投票できました。当たり前ですが(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 なにやらキツネにつままれたような総選挙が終わりました。結果への評価は別として、今回の選挙の主役は小池百合子氏だったということは異論なきところかと。華々しいスタートから無残な結果まで、まさに予測のつかないドラマを見るがごとき。

 でもコトは国政の問題です。「あー面白かった」では済まない。というわけで、なぜこのような展開になったのかを私なりに考えてみました。

 小池氏の誤算は「排除発言」が反発を買ったことというのが大方の分析です。氏自身も会見で「政策本位ということを考えて申し上げた」が「皆さんに不快な思いを抱かせたことは申し訳ない」と語りました。つまりは間違ってはいないが言い方がキツかったと。なるほど。でも本当にそれだけの問題なのか。

 今という時代の難しさは、誰もが「排除される恐怖」から逃れられないところにあります。

 国民が横並びで豊かになれた時代は、政治なんて誰がどうやったって誰もがそれなりのパイにありつけた。でも経済成長が終わった今はそうはいきません。限られた予算を誰かへ配分すれば誰かが泣きを見る。だから多くの人が心の底では国を信頼していません。自分の身は自分で守るしかないと思っている。だから皆税金を払いたがらない。

 でもこのままでは、ますます進む高齢化社会を乗り切ることなどできません。誰もが安心して生まれて死んでいくためには助け合いが欠かせない。だって保育所も高齢者施設もみんなが税金を負担しなければ増やせないよ。そして、その基盤になるのは信頼関係です。噛み砕いて言えば、自分は世の中から排除されないという安心感です。自分を排除するかもしれない国に誰が好き好んでお金を払うでしょう。

 つまりは排除の論理こそが真の敵なのです。若い世代には自民党支持者が多いと言われますが、同じ世代が将来不安を口にする。選挙が終わっても問題は何一つ解決されたわけじゃない。そのことを心に刻みたいと思います。

AERA 2017年11月6日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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