九龍ジョー「チェーホフが描いた人々の毎日は、マヌケで、愛おしい」

AERA
 子どもの頃読んで忘れられない本、学生時代に影響を受けた本、社会人として共鳴した本……。本との出会い・つきあい方は人それぞれ。各界で活躍する方々に、自身の人生の読書遍歴を振り返っていただくAERAの「読書days」。今回は、ライターの九龍ジョーさんです。

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 一度だけフランクフルト・ブックフェアへ行ったことがある。世界各国の参加者が「出版」というギルドで繋がっていた。私の使命は翻訳出版候補の本を見つけてくることで、だが会場の広大さに戸惑い、結局カフェでずっと文庫本を読み耽っていた(かろうじてアリスン・ピープマイヤー著『ガール・ジン』とミシェル・ティー著『ヴァレンシア・ストリート』、2冊の翻訳権はゲットしたが。それぞれ後に、野中モモと西山敦子が素晴らしい邦訳を施してくれた)。

 文庫本はチェーホフだった。松下裕編訳の短編集。「かわいい人」「犬をつれた奥さん」……なんてことのない題名で描かれる、なんてことない人たちのすったもんだ。人目を忍んだり、嘘をついたり、はしゃいだ自分を恥じてみたり。しまいには、別の何かに夢中で、大事な人の告白を聞いていなかったりする。すれ違ってしまう人々の毎日はマヌケで、愛おしい。きっと世界中、どこでも同じだろう。(終)

AERA 2017年10月30日号

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