溶けたワインの瓶。煙は湾を越え、150キロ近く離れた南のサンフランシスコやサンノゼまで流れ込んだ。サンフランシスコ市内も煙の臭いが立ちこめ、マスクをして通勤する人や、空気清浄機のある図書館に逃げ込む人もいた(撮影/朝日新聞記者・宮地ゆう)
溶けたワインの瓶。煙は湾を越え、150キロ近く離れた南のサンフランシスコやサンノゼまで流れ込んだ。サンフランシスコ市内も煙の臭いが立ちこめ、マスクをして通勤する人や、空気清浄機のある図書館に逃げ込む人もいた(撮影/朝日新聞記者・宮地ゆう)
山火事のあった地域
山火事のあった地域

 米カリフォルニア州北部を襲った原野火災によって、美しいブドウ畑と高級ワインで知られるナパ郡やソノマ郡は炎の海と化した。

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 これまでに同州史上最悪の規模の42人の犠牲者を出し、現在も50人以上と連絡がとれていないとの報道もある。東京23区の約1.4倍の面積にあたる約860平方キロメートル以上が焼け、約7千の建物が焼失。1万5千人以上が避難生活を続けている。「この先どうなるのか」。住民たちは途方に暮れている。

 焼け焦げた車、フレームだけ残った椅子やベッド。誰かが消火を試みたのか、消火器が5個、焼け跡に転がっている。かつて、よく手入れされた家々が並んでいた高級住宅地は人影が消え、炭と灰だけで白黒に変わった町に、鳥のさえずりだけが響く。

10月8日の火災発生から11日たってもまだ火は燃え続けている。被害の大きかったソノマ郡サンタローザ市は、遺体の収容作業も行われていて、多くの場所で住民の立ち入り禁止が続く。

「美しい町だった。いまも信じられない」。スポーツジム勤務のジェイク・フォービスさん(31)は、軍が封鎖した道路脇まで来て、全焼した自宅のある方向をぼうぜんと見つめていた。「煙の臭いで外を見たら、丘の向こうが赤く染まっていた。台風のような突風が吹き荒れていて、10分もしないうちに家は炎に囲まれていた」。義母は近所の家を回ってドアを叩いたが、長年の親しい隣人だった80代の夫婦は助からなかった。「車で逃げたが、煙がひどくて道路がほとんど見えなかった。僕らもあと30秒出るのが遅れたら、助からなかったと思う」

 同州はこの数年慢性的な干ばつや極端に乾燥した気候が続き、夏から秋にかけて各地で原野火災が起きている。今回はさらに強風が加わり、日曜の深夜で火災に気づくのが遅れた人が多かったことなどが、被害の拡大につながったとみられている。犠牲者の多くは70、80代のお年寄りだった。

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