左から小原孝さん、三舩優子さん、熊本マリさん。イベントではソロ演奏のほか、「ダイアナの泉」を三人三様の表現で弾き比べたり、「小さなすずめ」の6手連弾も披露した(撮影/写真部・岸本絢)
左から小原孝さん、三舩優子さん、熊本マリさん。イベントではソロ演奏のほか、「ダイアナの泉」を三人三様の表現で弾き比べたり、「小さなすずめ」の6手連弾も披露した(撮影/写真部・岸本絢)

「指と心に優しい」ギロックのピアノ曲のアルバムを、トップ奏者3人が生誕100年の今年、満を持してトリプルリリースした。ピアノ教室の愛奏曲から、万人の心が憩う愛聴曲へ。

 ウィリアム・ギロック(1917~93)。ピアノ教室の発表会などで人気の、この米国人作曲家の名曲を、もっと多くの人に聴いてもらいたい――音楽業界でいま、新たな動きが起きている。

 キングレコード、ビクターエンタテインメント、日本コロムビアの3社と全音楽譜出版社が合同で、本マリ、三舩優子、小原孝が演奏する3種のCDや楽譜集などを発売。9月には3人が集まり、東京・銀座の山野楽器で、ソロや連弾、トークなどでギロックの魅力を紹介した。

 ギロックは美しいメロディーの曲を500以上作り「音楽教育界のシューベルト」と呼ばれている。例えば「ガラスのくつ」「雨の日のふんすい」など、タイトルからイメージを膨らませて弾ける曲や、「ニューオリンズのたそがれ」「カーネル・ストリート・ブルース」といった4ビートのジャズテイストの曲など、バリエーションも豊かだ。

 大阪芸術大学の教授も務める熊本は、「副科の生徒がとにかくよく弾くんです。楽譜を読むとどれも美しい曲で癒やしがあり、ワルツやジャズなどリズムに特徴のある曲も多くバラエティーに富んでいます。もっと多くの人に聴いてほしい」と話す。

 三舩も「ギロックがコンクールの課題になっていると小学生の半分くらいは選びますね」。

 幼少期をニューヨークで過ごした三舩は、「彼の名前を知らないうちから、皆弾いてました。バロック、古典、近現代などそれぞれの様式をバランスよく学べます。ぜひ子どものころからプロの演奏を聴いてほしい」。

 日本でピアノといえば、バイエル教本を振り出しにツェルニーやハノンで技術を磨きつつ、ブルクミュラー、ソナチネ……と進む教育方針が昭和後期ごろまで主流だった。中高年のピアノ経験者は記憶にあるだろう。

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