記者会見で笑顔を見せる村上。日本女子の優勝は、1954年ローマ大会の種目別平均台の池田敬子(旧姓・田中)以来、2人目。個人総合は4位に終わり、わずかメダルに手が届かなかった (c)朝日新聞社
記者会見で笑顔を見せる村上。日本女子の優勝は、1954年ローマ大会の種目別平均台の池田敬子(旧姓・田中)以来、2人目。個人総合は4位に終わり、わずかメダルに手が届かなかった (c)朝日新聞社

 村上茉愛(まい)(日体大)が、体操世界選手権(カナダ・モントリオール)の種目別ゆか運動で、日本女子としては63年ぶりの金メダルを獲得した。

 日本女子にとって63年ぶりの金メダルの感想を求められて、村上茉愛はきょとんとしていた。21歳が63年の時間の流れを実感することは難しい。

 2日前、個人総合でメダルをつかみ損ねていた。「悔しくて、何色でもいいからメダルを取りたかった。63年ぶりが、私で良かったです」。最後は大きな目をくりくりさせて、囲んだ報道陣を笑わせた。

 カナダ・モントリオールで開かれていた世界選手権最終日。満を持して臨んだ8日の種目別決勝ゆかの演技はまさに圧巻だった。

 8人で争うなかで最初の演技順だった。採点競技では、最初の演技は基準になるため、得点は抑えられがちだ。

 一方で、村上は予選でこの種目2位の14.200点、個人総合決勝では1位の14.233点の高得点を出していた。周囲の点数を気にする必要も、演技構成を変えるような駆け引きも必要ない。自分の演技に集中できる状況が用意されていた。

 最も気を使う冒頭で流れに乗った。片足でくるくるとターンを4回。すぐにH難度のシリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)。着地を決めた。大きなミスはなく14.233点。追い上げをかわした。

 得意であるだけでなく、今回のゆかの演技には思い入れがあった。世界選手権のために、シーズン途中で演技構成を一新していた。

 音楽を使う唯一の種目であるゆかは、芸術性や表現力を重視する傾向が世界で強まっている。

 日本はその潮流から遅れていた。米国やロシアなどが振り付けや90秒の演技にストーリー性を追求するのに対し、日本選手には技を寄せ集めただけの演技が多い。細かい減点を抑えるため、技と技のつなぎに行う、ダンス系と呼ばれるジャンプやターンなどで細部を見直した。

 振り付けをアクロバットダンサーに依頼し、大人びた細かな表現を練り込んだ末の金メダルだった。

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