大学を卒業すると、ヘッジファンドのマネジャーが4階建ての自宅の一部を使わないかと声をかけてきた。そこに住み、サパークラブの「Pith」を開いている。庭でハーブを育て、近所の中学生たちに料理も教える。

 彼のつくる料理はフレンチベースのオリジナル。クラブには10人あまりが座れるテーブルが一つ。「12人まで座れるけど、10人のほうがいいね」。アシスタントのスタッフは1人だけ。価格は料理が1コースのみで95ドル、彼が選んだワインを合わせると追加で45ドルだ。安くはないが、そうお高くもない。「材料費やスタッフの人件費、家賃とかを考えるとそのくらいかなと思って」。あくまでも自然体だ。「レストランではない」ことにこだわる。

「だって、レストランって高すぎるし、階級っぽいし、なんか孤立してる感じ。食事ってもっと自由で、透明で、相互に楽しむものだと思う」

 客をもてなすことには真剣で工夫をこらすが、「あくまでもアマチュアでいたほうが面白い」という。肩書にとらわれず、自分も客も楽しませる。既成概念を軽々と超え、自由でカジュアル。新しい時代を切りひらく生き方なのかもしれない。(朝日新聞編集委員・秋山訓子)

AERA 2017年10月16日号より抜粋