日本の研究力の低下は著しい(※写真はイメージ)
日本の研究力の低下は著しい(※写真はイメージ)
(c)朝日新聞社
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 ここ数年、ささやかれ続ける「日本は今後、ノーベル賞を取れなくなる」という定説。そうなるだろうと見る人は多いのだが、何か防ぐ手立てはないのか。京都大学大学院総合生存学館教授山口栄一さんに聞いた。

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 日本の研究力の低下は著しい。残念ながら、今後も確実に低下するだろう。

 企業が基礎研究をやらなくなったことが大きな理由だ。物性物理、応用物理、材料科学、分子生物学といった基礎研究の領域は、日本ではかつて、大学ではなく大企業の研究所がリードしてきた。

 ところが、1990年代、企業はこうした研究所を次々に閉鎖し、実用的な研究に軸足を移した。結果、企業からの研究論文が減り、創造的な研究を目指した大学院生たちが行き場を失った。

 日本では大学院の博士課程まで行って博士号を取ると、大学や研究機関で研究者になるのがほとんどだ。かつては基礎科学でも、企業で研究も開発もできるという希望があったが、企業が基礎研究をやらなくなったことで、こうした道が断たれてしまった。

 大企業がすぐに事業に役立つ開発だけに集中し、基礎研究をやらないというのは経営戦略として仕方がない。だが、同じことを国がやるのなら、日本からは未来を推し進める研究は今後出ない。すなわちノーベル賞は生まれないだろう。

 ただ、まだ遅くはない。今これをやれば取り戻せると私が考えているのが、大学などでの基礎研究を元にした起業を支援する助成制度を設けることだ。米政府はここ30年、毎年2千億円の予算をつけて進め、成功させている。例えば、基礎研究から起業する若手研究者に最初に1千万円、次のステージで1億円を国が投資する。私の知っている研究者も大学で抗ウイルス薬の研究をしていたが、この制度を使って起業し、C型肝炎の創薬と実用化に成功した。

 基礎研究と産業は実は強くリンクしている。例えば半導体産業ではシリコンに代わる次の半導体が研究対象になっているが、新物質を見つけてそれを元に起業し、得た利益を元にさらに研究に回すというサイクルができるといい。そのためには、政府による継続的な支援が必要だ。(構成 編集部・長倉克枝)

AERA 2017年10月16日号