小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。近著に小説『ホライズン』(文藝春秋)。最新刊は『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)
大変動の政局。本当に国民の方を向いているのか (c)朝日新聞社
大変動の政局。本当に国民の方を向いているのか (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【小池百合子、松井一郎、大村秀章3知事の写真はこちら】

*  *  *

 もしもいつか、こんな総理大臣が登場したら。

「日本の若者は自分勝手で甘えているので、鍛え直さねばならない。東アジア情勢が緊迫している中、日本も備えを万全にしなければならないのだし、教育的な意味合いの強い徴兵制なら国民の同意が得られるのではないか。そもそも国を守るつとめは国民として当然のことで、憲法18条にある『苦役』には当たらないはずだ。家族や仲間を守るための訓練を苦役と呼ぶなんて、それこそ身勝手な“反日的”発想ではないか」

 兵役は苦役ではない、と時の権力者が言えば徴兵制は合憲であるというわけです。立憲主義という言葉は、とうに忘れられています。

 猛反発をする声もある一方で「日本は平和主義なのだからまさか本当に戦争を始めたりはしないだろう。南海トラフ地震や大規模噴火に備えて、自衛隊を増強する必要がある」「厳しい規律や身体鍛錬は素晴らしい教育だ。今どきの親なんかより、国に若者をしつけてもらったほうがいい」「仕事もしないでぶらついているうちの子を叩き直してくれるかも」「おたくの引きこもりのお子さんも、これで目を覚ましますよ」などの声も。

 総理大臣は「いいですか、戦争をしないために、備えを万全にするのです。私を信じてください」とほほ笑み、テレビでは爽やかな人気アスリートや可愛いアイドルが「みんなのためだから、輝ける!」「誇れる自分になろう!」と繰り返します。

「徴兵制がすぐに戦争につながるなんて、ヒステリックで世間知らずの発想です。世界には、徴兵制があっても長く平和を謳歌している国がたくさんあるでしょう。むしろ兵役を経験しているからこそ、戦争はしたくないと本気で考えるようになるのです」と笑顔で説く専門家……。

 荒唐無稽な妄想は、いつか祝祭の熱狂の中で、人知れず“あり得る現実”に変わるのかもしれません。

AERA 2017年10月16日号

著者プロフィールを見る
小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

小島慶子の記事一覧はこちら