その後も毎週、金曜の夜は妻がいない。いつしかヨシカズさんは早く帰って夕食の支度をするようになった。大学生の息子たちもなぜか早めに帰宅、男3人で酒を酌み交わすことも増えた。

「あるとき始発で帰ってきた妻が、ちょっとやつれてはいるんだけど妙にきれいに見えた。ドキッとしました」

 妻はそれまで、ときどき意味もなく不機嫌なことがあった。体調が悪いのか自分がいけないのかわからず、ヨシカズさんはおどおどと妻の顔色をうかがったこともある。だが、金曜夜の外泊が妻を変えた。妻はいつも機嫌がよく、夫にも優しい言葉をかけてくる。

 不倫歴8年のベテラン既婚女性は、「私が不倫をしていることで、あくまで結果論ですが家庭がうまくいくようになった」と話してくれたことがある。不倫をする妻たちは、夫に対して罪悪感をもっていない。ただ、自分が恋をして幸せだから、周りにもごく自然に幸せのお裾分けをすることになる。だから家庭がうまくいくのだ。彼女が言うように、あくまで結果論だが。

 ヨシカズさんの家庭もそうなのだろう。そして、彼は「妻が機嫌がいいならそれでいい」という結論に達し、いまだ外泊する妻を問い詰めてはいない。

 年代を問わず、夫たちがいちばん怖いのは「妻の不機嫌」である。だから、妻がご機嫌でいてくれるなら、週に1度の外泊くらい大目に見るという夫は少なくない。

「うちも外泊まではしないけど、ときどき妻の行方がわからなくなる。仕事は終わっているはずなのに帰っていない。『今度の週末、友だちに会うから子どもの面倒を見てて』というから見ていると、妙に浮ついた感じで帰ってくることもある。友だちに会ったという雰囲気ではないんですよ。でもそんなとき、妻は僕にとても優しい。だったらそれでいいかと思うんです」

 36歳の男性の言葉だ。家庭は家庭として「うまく」やっていければいいと男女ともに考えているとしたら、恋愛だけ切り離すのは、人としての知恵かもしれない。

 誰にもバレない、誰にも責められない、そして好きな男性から熱烈に口説かれ求められたら、あなたは不倫をしますか。あるとき、さまざまな女性たちにそんな質問をしたことがある。70人ほどに聞いて、誰も「ノー」とは言わなかった。人の行動を縛っている「倫理観」というのは、そんなものなのだ、おそらく。

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