──フリーは一転、ミスが多い演技でした。

 結弦の場合、常に新しいことに挑戦し、興味を持ち続ける必要があります。新しいジャンプ、新しい跳び方、難しい空中姿勢などが、彼のモチベーションになるんです。今回はジャンプの難度を落としたことで“燃え”なかった。結弦の性格を改めて学ぶ機会になりました。

──羽生選手は、前年の世界王者として平昌五輪に挑みます。

 私はカルガリー五輪に、前年の世界王者として挑みました。09年世界王者のキム・ヨナも、10年バンクーバー五輪で金メダルを取っています。私と結弦は同じシチュエーションを共有できる。特別な責任を感じるものですが、前年からの勢いを自信に変えて、五輪に持っていくことができます。私たちの頭の中には、結弦がモチベーションを高めたまま五輪まで走り抜ける完璧なシナリオがあるのです。

──五輪に向けて、どんな戦略で戦いますか。

 勝つために必要なのは、4回転の本数よりも、演技全体の完成度です。選手はジャンプをモチベーションに練習し、コーチの私はスケーティングの基礎を磨く練習を繰り返します。選手本人が実感しにくい地味な成長を支えるのが、コーチである私の役割だと思っています。

(構成/ライター・野口美恵)

AERA 2017年10月9日号